炭水化物摂取ダイエット―基礎編

ごはんを食べて、正しいダイエットを!

美しくやせるためには、むしろごはん積極的に摂る方がよい。

森谷敏夫京都大学名誉教授が提唱する「炭水化物摂取ダイエット (=京大式ダイエット) 」は、ごはんは減らさず、むしろ多めに食べることを推奨。その代りに「おかずは1割減」、「デザートを食べる時は食前に」と、いたってシンプルかつ画期的なもの。この「炭水化物摂取ダイエット」の効果や仕組みについて、森谷名誉教授に語っていただきました。

 
ダイエット「1ヵ月で-10kg」に潜むウソ

 カラダに負担をかけず美しくやせるためには、カラダに残った余分なエネルギーつまり「体脂肪」を徐々に減らすことが必要。体脂肪の増えすぎは、肥満になり、病気の温床になることが分かっています。

巷には「○●を続けて、1ヶ月で10kgやせました」というダイエット方法が、溢れています。しかし、これはまったくのデタラメ。それは、簡単な計算で証明することができます。

 体脂肪1kgには、約7,000kcalのエネルギーが含まれています。仮に体脂肪を10kg減少させたとすると、10kg×7,000=70,000kcalを1ヶ月で消費しなければいけない計算に。女性の場合、ふだんの食事で1日1,800kcalを摂っている人は、いっさいエネルギーを摂らないという条件付きで、消費するには70,000 kcal÷1,800 kcal≒40、つまり約40日かかる計算になります。人間は、1ヶ月も「飲まず食わず」で生活することは不可能なので、体脂肪が1ヶ月で10kg減ることはあり得ません。

 

 健康を維持するためには、単品に偏ったり、炭水化物(糖質)や脂質などの摂取制限(疾患があるケースは別)を行ったりするダイエットは、正しい方法とはいえません。このようなダイエットの多くは、体重の低下(体脂肪の低下ではない)ばかりに注目したもので、健康を無視したものがほとんど。科学的根拠(エビデンス)も希薄です。健康的にダイエットを行う場合には、バランスのよい食事摂取が基本となります。
 たとえ10kgの減量に成功したとしても、それは、体脂肪の減少ではなく、ただ体内の水分の減少(次章で詳述)によって体重が減った見せかけだけのダイエットに過ぎません。これをやせたとはいいませんし、1週間もすればすぐ体重が元に戻ります。また繰り返しそのようなダイエットを行うことで、カラダを壊してしまう危険性すらあるのです。

誤ったダイエット方法では、努力はすべて水の泡に!
 

 炭水化物(糖質)、脂質、たんぱく質の三大栄養素のなかで、お米に代表される糖質は、通常最も多く摂取される栄養素。また他の動物と違い、脳が発達しているために、人間のカラダには、糖質がどうしても必要になります。なぜなら脳は、摂取した総エネルギーのおよそ2割を使いますが、糖質由来のものしかエネルギーとして使えない特徴があるからです。

 ふだんの生活で消費されない糖質の余剰分は、体内に取り込まれるときに、肝臓や骨格筋にグリコーゲン(糖質エネルギー)として保管。このグリコーゲンは、その質量の3~4倍

の水分と結びつく性質を持っているため、ちょっと糖質を摂り過ぎた場合、一見体重が増え、太ったのだという誤解を生みます。これが、「お米を減らせばやせられる」という、誤ったダイエット神話につながったと考えてよいでしょう。しかし実際には、糖質が脂肪になること(体脂肪増)はほとんどありません。

 
 
 実際に、2001年に13人の女性を対象に、1日に必要なカロリーに50%を上乗せした食事(そのうち炭水化物27%、脂肪23%)を摂取してもらい、糖質が脂肪に変わる割合を調べた実験では、360〜390gの炭水化物(糖質)に対して、脂肪合成は3〜8gしか起きなかったという報告がされています(アメリカ臨床栄養学学会)。

 逆に、食事の質や量を減らしたりすると、食欲が満たされず、「飢え」を生みます。その状態が続くと、カラダは飢餓による生命の危機に備えて、少量の食事でも生きていけるように基礎代謝量(生きていくために必要なエネルギー消費)を下げます。

 基礎代謝が下がったといって、脳や心臓の活動レベルを急激に落とすわけにはいきません。そこでカラダは、保管されていたグリコーゲンを非常食として使い、脳の栄養をまかなおうとします。そのときに、3~4倍にあたる水分も同時に体外へ排出されるため、体重は4倍近く減少し、見せかけの「やせた!」状態になります。

 
 

 ほぼ絶食に近い1日405Kcalの超低エネルギー食ダイエットを4日間続けた実験では、「減った体重の3~4kgは水で、体脂肪はごく僅かしか消費されなかった」という結果も出ています。体重が減る=体脂肪が減るにつながるわけではないのです。

 そして再び食事をしっかり摂ると、飢えたカラダは、優先的に3~4倍近い水分とともにグリコーゲンの結合をはじめ、飢えに備えるエネルギーとして、もっとも燃費の良い(なかなか減らない)脂肪として、筋肉の失われたお腹や二の腕、あごの下に保存。そして、すぐに元の体重に戻る――これこそが、リバウンドのメカニズムであり、このリバウンドこそが、「本当にやせた=体脂肪を減らせたわけではない」という証拠でもあります。

 そして誤ったダイエットは、その努力をすべて水の泡にしてしまうだけでなく、隠れ肥満を生むなど、カラダに悪影響すら及ぼしかねません。
 
ごはんを食べても太らない

 戦後、日本人の食生活はお米を主食として魚や野菜を食べる「高糖質食」から、肉や脂を多く摂る「高脂質食」へと急速な勢いで変化。近年増加している肥満の背景には、この食の高脂質化が大きく関与しています。

 女性は、外食の時に「小ライス」でと頼む人がいますが、ごはんに代表される炭水化物(糖質)は、脂質の半分しかエネルギー(カロリー)がありません。むしろごはんは腹持ちが良く、炭水化物(糖質)のほかに、他の栄養素(たんぱく質、ビタミン・ミネラル類など)や食物繊維なども含み、決して太りやすい食べ物ではありません。

ごはんを主食とした「高糖質食」と「高脂質食」では、「高脂質食」の方が肥満しやすいことを、スイスの研究グループが明らかにしています。つまり、ごはんを主食とした「高糖質食」の方が太りにくい食事であることを裏付けているのです。

また、人間の脳は糖質しかエネルギーとして利用できないため、炭水化物(=糖質)をしっかり摂取しないと、脳の視床下部にある満腹中枢が満たされず、摂食が抑制されません。そのため、「高脂質食」ではいつまでも満腹感が得られずに、食べ過ぎるという結果にもつながりかねません。

 日本人のごはん(お米)を食べる量は年々減少。昭和40年頃に比べて約半分に。つまり現代の日本人は、ごはんを食べる量を減らしたことで、知らず知らずのうちに自らダイエットが必要とするカラダに変えてしまっていたのです。逆にいえば、ごはん食こそ、体脂肪を減らす正しいダイエットには、もっとも適している食事といえるのです。

 ※上記は基礎編です。実践編はこちら
 ※掲載当時の原本をお読みになりたい場合は、ごはんを食べて、 正しい ダイエットを!または、 教えて!!森谷教授!

 
 



森谷敏夫(京都大学名誉教授)

1950年、兵庫県生まれ。1980年、南カリフォルニア大学大学院博士課程修了。テキサス大学、テキサス農工大学大学院助教授、京都大学教養部助教授、米国モンタナ大学生命科学部客員教授等を経て1992年、京都大学大学院人間・環境学研究科助教授、2000年から同科教授に。現在は京都大学名誉教授。専門は応用生理学とスポーツ医学。生活習慣病における運動の重要性を説き、有酸素運動を推奨している。著書には『人は必ず太る しかし 必ずやせられる』(講談社)などがある。