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登場する炊き立てごはんやおかずに食欲が刺激される!美味しいごはんが食べたくなる映画たち

 食欲は、人間の三大欲求の一つ。日々の生活活動の一つであり、しっかりとらないと命にも関わるため、強い関心を抱いている人が多いというデータもあります。

 そのため映画やドラマの中では、食がテーマになったり、主人公の自宅の食卓やレストランなどでの食事シーン、特定のメニューが小道具として登場し、主人公の心理描写やストーリーにとって重要な役割を果たしたりしています。そして、出演者たちが美味しそうにごはんやおかずを頬張るシーンを観ると、私たち観客は確実に食欲を刺激され、つい美味しいものが食べたくなってしまうのです。

美味しいごはん一粒ひと粒には、生産者の米づくりの知恵と愛情が詰まっている。公開中の米づくりをリアルに描いた エンターテイメント映画『ごはん』に注目!

映画ごはん

 新宿や横浜などのシネコン、しかもレイトショーなどの公開にも関わらず、日本映画史上もっとも美しい水田風景、もっともリアルな米づくりが描かれていると評判になっているのが、『ごはん』という作品。

 物語は、主人公ヒカリ(沙倉ゆうの)が、父の突然の訃報を受け、派遣社員として働く東京から、実家のある京都に向かうところから始まる。実家に待っていたのは、顔に白い布をかぶせられた布団に横たわった父の姿。

 そのかたわらでは、「おやっさん!」と足にギブスをした若者が号泣していた。彼は源八という名で、ヒカリの父の米づくりを手伝っていた。父は、自分の水田だけでなく、付近の農家30軒分の米づくりも請け負っていたのである。

 季節は田植えから2か月を過ぎた初夏になっており、水田の苗はすくすくと育っていた。「今さらやめることは、できんとです」という源八だったが、足を骨折していた彼自身は、農作業をできる状態ではない。そこで八方手を尽くし、父の後を引き継いでくれる農家を探したが、だれも手を上げるものもなく、途方に暮れるヒカリ。

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 そんな中、田を預かっていた農家の西山老人から「お父さんがなんであんなに一生懸命やったか知りたないか?」という言葉を掛けられる。その言葉に、ヒカリは源八の足が治るまで田んぼの面倒を見ようと決意するのだった。そして、ここからヒカリの米づくりが始まることになる……。

 ここから、米、そしてそれを取り巻く自然とヒカリとの闘いが始まるのだが、いくつもの困難が待ち受けていたことは言うまでもない――炎天下での日射病、突然の豪雨と風のため倒伏してしまった稲、稲刈りのためのコンバインの故障などなど。

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 美しい水田風景と裏腹に何度も打ちのめされるヒカリの姿。そして、それを乗り越えさせていく生産者の昔から育まれてきた米づくりへの知恵と情熱が見事に交錯する。やがて、秋の風が稲穂の草原を渡る頃、美しくも感動的な奇跡が起こるのである。

映画ごはん

 『ごはん』は、ただ単に牧歌的な美しい田園風景を描き出した作品ではない。また、押しつけがましく、過酷な労働を強いられている農家の現状を訴えている作品でもない。

 自然の恵みと先人の知恵や生産者の苦労を淡々と、時にはドラマチックに描くことで、米一粒ひと粒が美味しいごはんとなって人の口に入ることへの感謝や慈しみを表現しているのである。だからこそ、ヒカリが自分で育てた米を炊き、一杯のごはんを食べるシーンは感動的であり、観客の涙を誘う。

 そして、エンドマークがスクリーンに流れると、観客は皆、無性に白いごはんを食べたいと思っている自分に気付かされるのだ。

映画ごはん

『ごはん』(2017年作品)
監督・脚本・撮影・照明・編集:安田淳一
出演:沙倉ゆうの、源八、福本清三
井上肇、紅壱子ほか
製作:未来映画社

スペシャルインタビュー/安田淳一(監督)&沙倉ゆうの(主演女優)「もしかしたら自分が!」という思いから長編の構想が

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 この映画は、安田監督の名を世に知らしめた『拳銃と目玉焼』(2014年公開)で主演をつとめ、未来映画社の看板女優でもある沙倉ゆうのさんのイメージ映像の企画から始まった。そのロケ地として選ばれたのが、京都市では珍しい水田地帯が広がっていた巨椋池(おぐらいけ)土地改良区。のどかな水田風景の中に高速道路のインターチェンジがあり、最初は漠然とその構図が面白いと感じた安田監督だったが、その土地について調べていくうちに、「15分ほどの短編映画になるのでは?」とイメージが膨らんでいったという。

 実は、安田監督の実家は京都府城陽市で農業を営んでおり、ヒカリの父同様に約30軒の水田を預かって稲作も行っていた。そして、主演の沙倉さんは、「白いごはんが大好き。子どもの頃は、お米ばっかり食べて、あまりおかずを食べなかったので母によく怒られました(笑)」というから、企画が自然と膨らんでいったとしても何ら不思議ではなかったようだ。

安田「巨椋池の水田を見ていた時、好き勝手なことをやって生活してきた農家の長男の僕ですが、オヤジにもし何かあったら、自分はどんな立場に置かれるのだろう?――家を継いで稲作をするのか? ゾッとするな、と思ったんです。もし、女の子がその立場に置かれたら……と考えているうちに、短編の予定が長編へ企画へと様変わりしていったのです」

沙倉「監督はゾッとすると感じたようですが、私がその立場に実際、置かれたら……。少し当初のヒカリちゃんに似ている所があり、”すみません〟って断りにくく"仕方ない。やろっか〟となりやすい部分もあるので、とりあえず一年は頑張ってみると思います。ただ、今の私はお芝居がしたいので、そのまま続けるかどうかは、一年を通して米作りをしてからでないと分かりませんが(笑)」

 そして2013年秋から撮影を始めたが、ストーリーが固まるよりも早いスピードで稲がドンドンと育ってしまい、撮影は翌年と持ち越されることに。2年目には脚本もでき、インターンの学生などが製作に加わった(低予算のため、学生たちの協力を仰いだ)が、この年は冷夏で思ったような撮影ができないまま、また翌年へ撮影は持ち越されることになってしまう。

 しかし、映画のストーリーを煮詰めていく上では、この撮影期間の延期はいい影響を及ぼしたと安田監督は語っている。

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安田「女の子が引き継いで稲作をするというモチベーションは、最初は責任感だけでしたが、西山老人の〝お父さんがなんであんなに一生懸命やったか知りたないか?〟という言葉が加わることで、深みが生まれるなど、シナリオの欠点が補完されていったのです」

 そして、この西山老人を演じたのが「日本一の斬られ役」といわれ、『ラストサムライ』(2003年公開/アメリカ映画)では重要な役どころを演じ、『太秦ライムライト』(2014年公開)では主演にも抜擢され、数々の賞を受賞した福本清三さん。

安田「『拳銃と目玉焼』の監督作品だったらと、出演を快諾していただきました。また、福本さんの実家も農家で、百姓の気持ちを代弁したいという意気込みもあったようです。ただ、じっくりした芝居になれない部分もあり、70テイクぐらいかかったこともありましたが、その存在感で作品に重みが加わりました」

その福本さんの人柄を沙倉さんは、次のように評している。

沙倉「福本さんは、とっても謙虚で照れ屋な人。〝ワシなんか~〟〝アホなこと言いなさんなぁ(笑)〟と言いながらも、何でもこなしてしまうんですよ」

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