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新春スペシャルインタビュー マラソンを走りきる身体は、ごはんを中心とした食生活で作られる! 高橋尚子さん

食に気をつけることが、
自分のマラソンでの目標に近づくことにつながる

 管理栄養士という専門家のサポートによって、高橋さんなどのトップアスリートの日常的な食事メニューが作られているが、「マラソンを完走したい」「もっと早いタイムを出したい」と思っている市民ランナーにも、参考になる工夫がいっぱいだ。

高橋尚子――マラソンを走る身体は、練習だけでなく、食べることによって作られるという意識を市民ランナーの方にも持っていただきたいと思います。

 これはランナーに限ったことではないですが、ふだんは炭水化物、脂質、たんぱく質の三大栄養素に加え、ビタミンやミネラルをバランス良く摂ることが基本です。

 そして、練習メニューに合わせ、食事の摂り方を変えていくことが必要となってきます。長く走ったりしたあとは、筋肉が壊れてしまうので、筋肉の修復を促すアミノ酸を多く含むたんぱく質、その働きを補助するビタミン類を積極的に摂るようにすることが大切。また、練習量を多くしようとするなら、前日からごはんなどの炭水化物を多く摂り、エネルギーを蓄える必要があります。

 納豆は、良質なたんぱく質食材で、アミノ酸の結合がよくなり、筋肉修復などに効果的だったので、私は1日4パック食べるようにしていました。といっても、食べたふりをして、何度かは抜いたのが、小出監督にばれて、「Qちゃん、納豆食べなかったね」といわれたこともありますが……。

 気をつけたいのが貧血。長い距離を走っていると、痛みやハレはすぐ気づきますが、貧血は予兆がなく急に襲われることも。マラソンでは走っている際、着地したときの衝撃で赤血球が壊れ、貧血になる確率が高くなるから。これを予防するには、ひじきやレバーなどによる、鉄分補給が欠かせません。

 私は一日2食、これらを食べていました。でも毎日同じものでは飽きてしまうので、ケチャップ味のレバー、カレー味のひじきにするなど、料理のバリエーションを付けると摂取しやすいかもしれませんね。

 できれば、納豆、レバー、ひじきは続けて、食べるように心がけるようにするといいと思います。このように食に気をつけると、自分の目標に近づきやすくなるはずです。

納豆 しかし、ふだんの生活、付き合いなどもあります。プロではないのですから、何日か摂れない日が続いたとしても、必ずしも「ダメだ」と悲観する必要はありません。逆に、何日か続けられたら、自分をほめてあげることも必要。マイナス思考は、決していい結果を生まないからです。

レースでの完走を目指すなら、
ごはんを中心とした炭水化物でエネルギー貯蓄を!

 トップアスリートは、レース前にはカーボ・ローディングという走るための特別な食事メニューで臨むという。一週間をかけてレースに向けた最終仕上げをするわけだが、市民ランナーも、それに近いメニューを摂ってレースに臨めば、目標達成の近道になるかもしれない。

高橋尚子――レースが日曜日だと、月?木曜日までは肉や魚などタンパク質が中心のメニュー。私は、最後のたんぱく質はウナギを摂ると決めていました(笑)。

 そして金~日曜日の朝までは、炭水化物を中心とした高糖質食にして、筋肉中に走りきるだけのエネルギー(グリコーゲン)を貯蓄していくことに。私の場合は、どこの国に行っても、ごはんが中心のメニューでしたね。金曜日と土曜日は、うどんの中にお餅を入れただけの力うどんをおかずに、ごはん。レース当日は、お餅にごはんといった具合。炭水化物以外のものは、お味噌汁と梅干くらいでしたね。

 ごはんを中心にした炭水化物一色の食事になると、「いよいよだ!」と、レースに向けテンションが上がっているから不思議です。

 しかし市民ランナーの方には、マラソンを楽しんでほしいので、ここまでストイックにカーボ・ローディングを行う必要はないと思います。野口みずきさんは、前日に肉を食べていましたし、最強の市民ランナー川内優輝選手は、カレーライスを食べています。

 ただ、完走を目指すなら、月?木曜日までは、たんぱく質を多く摂る食事、金からレース当日までは、炭水化物を多めに摂ることをお薦めします。また、お酒を断つという意味ではなく、「アルコール摂取は控えめに」が望ましいですね。摂取し過ぎると、脱水症状につながりかねないからです。

 レース当日の夜は、疲労困憊で食事すら喉を通らないという市民ランナーも多いかもしれない。しかし適切な食事をしないと、逆に疲労回復に時間が掛かることにつながりかねないである。

――レースの夜は、筋肉をはじめ、身体の再生、修復を促進させるためにも、炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン類をバランスよく食べることが必要です。レース後はあまり食欲がわかない、という方もいらっしゃるかもしれません。私も気温40度での練習の後などは、さすがに食欲がありませんでした。1口食べて、5分休んで、また食べて、と1時間以上かけて食事をしたこともあります。ゆっくりでも食べることが、疲労回復を早めますし、走りきったあとにたんぱく質を十分にとることは、強靭な筋肉を作ることにつながるのです。

 レースを終えたことを終わりと考えず、もう一歩飛躍する時間と考えることも必要だと思います。